エピソード紹介集。超ツンデレ彼氏からチャペルで受けたプロポーズ笙。
地元・九州から上京してきてかれこれ2年半がたった頃、私たち二人の関係は正直《 マンネリ 》の一言で片づけられるほどに、冷えていた。
関東うまれ関東育ちの同い年の彼は、とにかく口が悪い、態度がでかい、高慢で意地っ張りの性格難あり男だったけど、仕事に対する姿勢に惚れて、猛アピールの末にやっと射止めた猛獣系男子。
ディズニーランドに行こうといえば、富士急で絶叫三昧。
夜景が見えるお店で飲みたいといえば、サラリーマンだらけのビアガーデン。
夏フェス系のにぎやかイベントにいきたいといえば、超超マイナーのインディーズへヴィメタバンドのライブに連れていかれる。
私の趣味は世間一般の20代前半女子と大差ない。
できれば可愛いマスコットとキラキラパレードを楽しんだり、可愛くカクテルを傾けたり、人込みで彼にひっついたりしたいものだ。
…でもこの人を選んだ以上、それはきっと一生かけてもできそうにないな、と最近はあきらめていた。
「おい、今度の土曜は空けとけよー。遠出すっから。」
リビングで某ロボットプラモを組み立てながら彼が言った。
視線は手元を凝視したまま、でも多分これはプラモにではなく私に言ったんだと思う。
「よかけど、どけ行っとね。電車?チャリ?」
私も彼も車はない。
近場だと自転車がデフォルトだったからなんとなく聞いた私の質問に、彼は少し虫の居所が悪くなったようで
「はぁ!?そんなのお前が心配しなくていいんだよ!服でも考えとけ!」
普通の女の子なら耐え切れず泣いてしまうかもしれないほどの怒鳴り声で彼は言った。
( あー、はいはい。)まあ彼には彼なりの予定があるのかな、くらいに考えて、それ以上このことについて話すことはなかった。
土曜日の朝6時半、携帯の着信音で目が覚めた。
画面に映し出された彼の名前に飛び起き、一瞬で正座して電話を取った。
「(珍しいな、自分からかけてくるの。仕事入っちゃったかな。) おはよ。今起きたんけど…。どげんしたと?」
彼は外にいるのか、人の声や駅のアナウンス、車の音が響いていた。
「おう、おはよ。…あのさ、今日あの白いワンピース着てきてよ。」
私は思わずすっとんきょうな声を出してしまった。
普段彼が私に可愛い格好を要求することはなく、むしろその白いワンピースを初めて彼の前で着た時も「似合わねーよ」と一蹴されたため、その後はタンスの肥やしとなっていたのに。
わかったと短く返事をしたら、「1時間で迎えに行く」とだけ言われ、プツンと切られてしまった。
そして約束の1時間後ぴったりにスーツ姿の彼が私を迎えに来た。
…謎の車に乗って。
「え、え、車どげんしたの!?買ったの!?」
助手席に乗り込みながら聞くと、面倒臭そうに一言「そうだけど。」
その後言い訳のように
「スーツなのは仕事明けなだけだから。どこに行くかは聞くなよ!ぜってー聞くな!着くまで一言も喋んなよ!!」
と威嚇され、車内にはいつも通り彼好みのハードな音楽が大音量で流れるだけだった。
やはり今日は機嫌が悪そうだ。
着いた先は都内某所にある、まるでお城のような建物だった。
一見お姫様達が舞踏会に集まってきそうなこの建物だけど、私はここが結婚式場だということを知っている。
なぜかというと、私がずっと憧れていた式場だからだ。そしてそれを、彼も知っていた。
彼の後ろにピッタリとついて中に入ると、スタッフの皆さんは一言も喋ることなく、ただただ笑顔で迎え入れてくれた。
何を喋ったらいいのかわからずただただ彼について歩いていくと、一番奥の大きな扉の前で立ち止まり私の手を取ってニヤリとイタズラっぽく笑った。
そして彼が扉に手をかけた…。
目の前には雑誌でしか見たことのなかった広く美しい大聖堂。
ステンドグラスから零れる七色の光の下で彼は跪き、私の手に小さな小さな石のついた指輪をはめた。
そしてこの瞬間に、やっと自分が置かれている状況に気づいて泣きそうな顔をしている私に彼は言った。
「幸せにしてやってもいいよ」
彼のこんなに無邪気な笑顔を、私は初めて見たかもしれない。
「く、車は?なんで?え…なんでどうして…」
一世一代人生一度のプロポーズの返事を忘れうろたえる私の手を握り、彼はいつもの口調で話し始めた。
「てめーが俺ん家に引っ越してくんのに、どーしたって車いるだろーが!どっかの誰かさんが潔癖でレンタカー借りれねーし…今後ガキだって生まれりゃ必要になんだから、だったら今あっても変わりないだろ。…つーかさ、返事は?」
こんな時まで彼は意地悪だ。返事なんて、わかっているくせに。
その日から丁度1年後、私たちは同じ場所で、
生涯を共にすると誓った。