プロポーズ エピソード紹介集。海際で幼馴染からの二度目のプロポーズ
「僕のお嫁さんになって」
私の生まれてからの一番古い記憶は、幼馴染からのこのプロポーズでした。
でもなんて答えたか覚えていません。
私たちが生まれた街は、特に特徴のない海しかない街で、幼馴染のしんちゃんとはずっと一緒でした。
中学生になってもなんとなくクラスの子たちが気を使ってくれて席は常に隣同士。
先生も苦笑いするほど仲良し。でも、私たちは付き合っていませんでした。
しんちゃんのことが特別に好きなのか?
と聞かれると、よくわからないというのが正直な気持ちで、あまりに近くにいたので、今の関係を崩したくないと思っていたんです。
社会人となり私たちは生まれて初めて離れ離れになりました。
新しい生活は楽しいことだらけなのに、なんだか足りなような気がする毎日。
自分のことがよく分からなくなって、地元に一度帰ったんです。
いつも見ていた海を眺めていると、しんちゃんから着信がありました。
「帰ってきてるって?」
「うん。海にいる。」
それだけ言うと電話は切れ、しばらく海を眺めてのんびりしていると、しんちゃんがやってきました。
「なんで戻ってきたの?」
「田舎が恋しくなって」
そんなやりとりをしながら、夕日が落ちていくのを眺めていると、いきなりこう言われたんです。
「俺のお嫁さんになって」
私はなぜだか懐かしく、今までにないくらいの幸福感に包まれました。
咄嗟のことで気恥ずかしさを隠すため、
「小さいころにもあったよね、そんな事」
とごまかしてしまいました。
それを聞いたしんちゃんは大爆笑。
なにが起こったか戸惑っていると、
「ホント、変わってないね」と言われました。
しんちゃん曰く、小さいころにプロポーズを受けた時も、私は恥ずかしくなってしまい、急に砂場遊びを始めたらしいのです。
まだ笑い足りない様子のしんちゃんを見ながら、私が欲しかったものはこれなんだなと思いました。
大きくて、包んでくれるような、海みたいな笑顔。
きっと私はこの笑顔が無いと生きていけないんだな、それくらい長い時間を一緒に過ごしてきたんだな。と、この時初めて思ったんです。
「変わってなくてもお嫁さんにしてくれる?」
と私が聞くと
「ずっと待ってるつもりだったからね。ずっと見てきた。それでも好きだから、もうこの先もずっと好きなんだよ」
としんちゃんはまだ笑いながら言いました。
「私も好きなんだろな。なんだか今気づいたけど。」
「気づくのがおばあちゃんになってからじゃなくてよかったよ、のんびりしてるから。」
私たちが結婚を決めたのは、
ドキドキするようなロマンチックな場所でもなく、
熱く見つめられながらでもなく、
終始笑いながらのプロポーズでした。
でもそんな二人の空間が、心が苦しくなるほど大切に思えたんです。
私たちの初恋がようやく実った瞬間でした。