エピソード紹介集。大切だと気づいたから、逆プロポーズ笙。
「どうしよう!どうしよう!どうしよう!!」
私はパニックを起こして親友のちいをランチに呼び出してしまった。
「もう5年一緒にいるんでしょ、そりゃそーなるでしょ。」
ちいはクールに言った。
私と彼氏のさっくんは同棲して5年。
そんなさっくんの鞄から先日怪しい箱を見つけてしまった。
危険なサイズ
危険なブランド
きっと婚約指輪だ。
私たちは仲良しだ。
さっくんのことは大好きだけど、結婚となるとまた違う。
「あんなにいい人なのに何が不満よ?」とちいに言われ考えてみる。
「こんなに好きなのに、永遠の愛を誓ったのに、いつか裏切られる気がして怖い。」
そう答えた私に、ちいは深くため息つきながら「じゃあ一生好きな人と結婚しないつもり?」と聞いた。
私だって分かってはいる。
ただ結婚って正直もっと冷めた気持ちで、ある意味契約のような感覚で行うものだと思ってた。
私はひねくれているのかもしれないけれど、好きで好きでたまらない人と結婚するのが怖いんだ。
「ちょっと旅にでるわ」
私がそう言うと、ちいは「あんまり逃げ回らない方が良いよ」と最後のアドバイスをしてくれた。
さっくんにはちょっと旅行に出ると連絡だけして、荷物をまとめてすぐに出発した。
正直顔を合わすのも照れくさくて。
特に泳ぐ予定もなかったけど宮古島まで来てしまった。
ぶらぶらと歩きながら夜空の星をみて、海の音を聞く。
そんな日々を数日間続けていた。さっくんからは定期的にメールが来ていた。
きっと私の旅行を邪魔しないようにと気遣っているから、電話はなかった。
1週間過ぎたころ、なんだか苦しくなってきた。
こんなにも長いことさっくんに今日あったことの報告をしなかった日々は5年間一度もなかった。
さっくんに話せないなら、
どんなに海が青くても、
どんなに空が澄んでいても、
どんなに星がキレイでも、
全然意味がない気がしてきた。
ようやく私はさっくんの待つ家にたどり着いた。
なんとなくバツが悪くてもぞもぞしていると、ドアが勝手に開いた。
「そろそろ帰ってくると思った。」
いつもの穏やかな笑顔でむかえられた。
私は何から話そうか混乱してしまい、考えていたことをそのまま口に出してしまった。
「こんなに好きになるはずじゃなかった。こんなに好きにならなければ結婚したかったのに、こんなにもさっくんのこと好きだと将来離れていかれる怖さでもう一緒にいられない。でも結婚するならさっくんじゃないと嫌なの!」
怒っているような口調で叫んでしまった。
自分でもおかしなことを言っているのは分かっていたけど、自分の思っていることを正直に話せてスッキリした部分もあった。
さっくんはキョトンとした後、「こんなにも熱がこもった気持ちを伝えられたのは人生で初めてだよ。」と穏やかに言った。
「結婚したくないの?」と聞かれ「いつか離れていかれるのが怖いから」と答えた。
「でも結婚したいの?」と聞かれ「さっくんとじゃなきゃ嫌なの」と答えた。
さっくんは笑いながら「なんだかなぞなぞみたいだね。じゃあ離れないと誓うから結婚してくれる?」と、また聞いてくれた。
「そんなの絶対じゃないもん。」ひねくれ者の私は言う。
「じゃあ毎年、今年1年愛し続けますって誓うから、結婚記念日ごとに更新してよ。この先死ぬまで毎年誓い続けるから。永遠の約束じゃなくて、1年の約束を死ぬまですることを誓うから。」
ひねくれ者の私もこれには負けてしまった。
「はい。1年の約束が一生欲しいです。」
そんな私にさっくんは
「本当に変なやつ。でもその変なところも含めて大好きだよ。」
と婚約指輪を指にはめてくれたのでした。